岩井先生の海のあれこれ Vol.2
藻場と海の環境
海の中にも、十分に光が当たる岩礁海岸や、波がそれほど強くない砂泥の海底には、陸上の森や草原のように植物が茂り、その中で様々な動物たちが生活している場所があります。
このような場所を「藻場(もば)」と呼びます。
藻場を構成するのは、海藻の中でも大型となるホンダワラ類(ガラモ)とアラメ、カジメ、コンブなどのコンブ類の褐藻類の仲間、砂地で草原のように広がるアマモです。
その中で、アラメとカジメ、コンブからなる藻場を海中林と呼ぶこともあります。
南北アメリカ大陸沿岸には、ジャイアントケルプと呼ばれるコンブの仲間が100mを超えるまでに成長し、広く海面を覆う海中林を作っています。
その中で休んだり、ウニなどを食べているラッコの映像などを見られた方も多いと思いますが、このラッコはウニを食べることで海中林の維持に重要な働きをしています。
藻場が形成される沿岸域では、海藻の成長に必要な栄養塩を含んだ海水が、陸からと、時には湧昇として、供給されています。
藻場を構成している大型の褐藻類は、葉全体で光合成をし、水中の栄養塩を吸収しています。
葉全体が滑らかにゆらゆら揺られることで、葉の表面が海水や光に接するチャンスを増やし、光合成や栄養分吸収の効率を高めることで多くの二酸化炭素を吸収し酸素を放出しています。
その能力は、地球の生態系の中では熱帯雨林に匹敵するほどの高い値を示しています。
藻場には、海藻を餌とするアワビやサザエなどの貝類や葉上に付着する有機物を餌とする巻き貝の仲間や、ヨコエビやワレカラといった甲殻類など様々な小動物が生息し、これらを餌とする小さな魚が生息しています。
また、海藻は小さな生き物の隠れ家となり、餌が豊富でしかも怖い捕食者襲われにくいという、稚魚にとって好適な空間、ナーサリーとなっています。
さらに、藻場で育った稚魚が大きくなって外へ出て行きますので、藻場周辺は優良な漁場になり、人々の生活を潤しています。
このように藻場は水産資源としての価値が高い場所として保全や造成が進められてきましたが、この数年で新たな価値観で藻場の重要性が高まってきました。
そのキーワードとなるのが、「ブルーカーボン」です。
岩井克巳(いわいかつみ)
・株式会社 漁師鮮度 代表取締役
・NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
大学卒業後34年間、海域環境改善技術の調査・コンサルタントの仕事に携わる。
現在は、阪南市の小学校で子ども達への海洋教育を行う他、「海のゆりかご」とも呼ばれるアマモ場の再生など様々な海の環境保全活動に取り組む。
2017年より大阪府初の漁協直営のカキ小屋「波有手(ぼうで)のカキ」のオープンに協力し、カキ養殖を手掛ける。